当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

地域にとけ込んだ江幡さんの展覧会 

 今年の夏江幡三香さんの個展が天竜市の秋野不矩美術館主催で開催されましたが、それはこれからの展覧会、アーティストと地域との関わり方の一つの方向性を示唆する画期的なものでした。

 江幡さんといえば、こんなかわいい女性がどうして、と思われるような巨大で荒々しく男性的な木彫彫刻をチェーンソーや斧を使って制作するこの世界では知る人ぞ知るユニークなアーティストなので、何かやってくれるだろうと期待していたのですが、まさに驚きでした。

 まず展示場所ですが、美術館がメイン会場であるのですが、公営の建物、駅、商店や旅館などに分散して、街中が会場となっているのです。ガソリンスタンドで給油をしたら、そこのおばさんがうちにもあるよと裏の通りに面したお店に案内され、古い柱に飾られた江幡さんの作品を指さしました。作家の人がきて、この作品はここがぴったりだというんだよとまんざらでもなさそうでした。

 市営プールの天井の作品を見ていたら、静岡新聞の記者にモデルになってくれといわれ、家内と首が痛くなるほど上を見つめる羽目になりました。その記者は、4ヶ月前に彼女がお寺に住み込み、現地で制作してきた様子を写した沢山の写真を見せてくれました。また彼女や美術館の学芸員が、多くの困難を情熱と行動で乗り越え、次第に行政、森林組合、商店街、学生、一般市民、マスコミなどを巻き込んだ一大イベントに仕立て上げていった感動の物語も聞かせてくれました。

 彼女は海外で何回もアーティスト・イン・レジデンスの経験をしていることもありますが、愛くるしい大きな目で誰にでも語りかけ仲間になってしまう強烈なパーソナリティが大きな成功要因となったのではと私どもは思います。

 オープニングは、夕闇迫る中、彼女の作品が置かれた美術館の庭で体を黒く塗った二人の男性が、もう一人のやや教祖的雰囲気の男性の奏でる原始的なリズムと旋律に合わせてあやしく動くパフォーマンスで幕を閉じました。