当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

命がけで護られたアフガンの文化財 

 偶像崇拝を禁止したアフガンの旧タリバン政権は、昨年3月に国際社会の猛反対を押し切ってバーミアンの巨大石像2体を爆破してしまいました。タリバンはまた人間や動物の絵や彫刻の制作・公開を禁止し、博物館や美術館を閉鎖するだけでなく、それらを題材にした文化財の破壊を始めました。宗教上の理由で、後世に引き継ぐべき国民さらに人類の誇りうるカルチャーが失われていくことに、私たちも心を痛めたものでした。

 今年の2月に「カブール美術館再開」という新聞記事を見て、やっと一つ明るい話題が出たなと思いました。実はその裏には驚くべき美談が秘められていたのです。

 カブールの開業医で画家でもあるアセフィ氏が、美術館にあった油彩画に描かれていた人間や動物を水彩で塗りつぶし、そこに違う絵を描いたりしてタリバンの目をごまかし80点もの絵を護っていたのでした。タリバンの去った後、水彩絵具を洗い落としほぼ元通りの絵を再現できたことが、美術館再開の大きな原動力となりました。

 美術館を訪れたカルザイ首相は「大切な遺産を命がけで保存しようとした彼の行為は、これから復興に立ち上がらなければならない国民に勇気と力を与えてくれる」とたたえました。

 これもテレビで知ったのですが、タリバンは映像も禁止し、すべてのフィルムの焼却を命じました。当然映画会社のフィルムの倉庫はタリバン兵に押し入られましたが、直前に職員が50年間のニュース映画だけを小部屋に運び込み、ドアをカモフラージュしてその部屋がないように見せかけました。タリバン兵に「もし他にフィルムを隠していたら、お前らの命はないぞ」と言われたそうです。この勇気ある行為が無かったら、50年間のアフガンの歴史を証明する映像が、永遠に失われてしまうところでした。