当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

ベルギー・オランダ美術の旅(3)

 17世紀は誇張や劇的効果を象徴とするバロック美術の時代とされていますが、その代表者がリューベンスです。今回の旅行では美術館や寺院などでリューベンスの絵には何回もお目にかかりましたが、彼は油彩画だけでも2千点に及ぶ作品を残しています。

 ベルギーのアントワープが彼が晩年の30年を過ごしたアトリエ兼住宅が公開されているというので行ってみましたが、残念ながら改修中では入れませんでした。彼はここで多くの弟子たちに手伝わせながら超大作の制作に当たっていたのですから、多くの作品はリューベンス工房作というべきかもしれません。しかし同じ宗教画でも、メムリンクの静的で無表情な表現とは全く異なり、動きを進行形で捉える構図、個々人の感情が伝わって来る表現、作品が置かれる場を意識した大きさや色彩などの面で、彼はまさに絵画の革命児でした。

 「フランダースの犬」のネロ少年がリューベンスのような画家になることを夢見て通ったというアントワープのノートルダム寺院には、「キリストの降架」など彼の代表作が4点あります。ネロ少年は、普段はカーテンが掛かっていて、お金のない彼には見ることの出来なかった2点の絵を、風と稲光で奇跡的に一瞬だけ見た後、愛犬と共に永遠の眠りについたのだなと、作り話とは知りながらも感傷的な気持ちになりました。

 一方少し遅れてオランダでは、リューベンスとは一味違った落ち着いた画風の絵画が隆盛を極めます。その代表がレンブラント、フェルメールなどで、それまで寺院や貴族からの大作の注文制作が中心でしたが、風景画、静物画、肖像画など一般市民を顧客とする制作に重点が移っていきます。アムステルダムの国立美術館では、レンブラントの「夜警」、フェルメールの「台所女中」など多くの傑作を見ることが出来ます。