当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

ベルギー・オランダ美術の旅(2)

 15世紀のネーデルランド美術の最大の貢献は、油彩技法の開発といってよいでしょう。これはイタリアにおける透視技法の発明にも比すべき重大な出来事でした。油彩絵具は発色に優れ、視覚的世界の再現のリアリティを飛躍的に高めたため、西欧全土にたちまち普及していきました。

 毛織物と貿易で15世紀に最盛期を迎えたブルージュでは、初期フランドル絵画の巨匠ヤン・ファン・アイクやそれを吸収して発展させたメムリンクなどが活躍していました。

 ブルージュはその時代の街の様子が非常によく保存されていて、中世にスリップ・バックしたような美しい街ですが、そこにグルーニング美術館とメムリンク美術館(改修中)があって、開発されたばかりの油彩技法を駆使した当時の名作を鑑賞することができます。同時代のイタリアのボッティチェルリなど初期ルネッサンスの躍動感ある明るい絵を見慣れた私どもから見ると、まだまだ中世の宗教にある抑圧から抜けきれない重苦しい感じの静的な作品が多いように思えました。顔が妙にのっぺりしていて生気のない表情をしており、キリストにお乳を与える聖母の体型も不自然で、衣服の繊細な表現には感心したものの、どうも好きになれませんでした。

 一方、後期ルネッサンス期に活躍したのがブリューゲル親子で、かれらの作品は多くの美術館で見ることができますが、たまたまブリュッセルの王立美術館で百数十点集め特別企画展をしていました。村を少し高い所から俯瞰した構図の中に数え切れないほどの農民や家畜を散らばらせた例の不思議な絵です。それぞれの人は家畜を殺していたり、喧嘩をしていたり、スケートをしていたりと大変面白く、私どもの好きな絵の一つですが、父親と二人の息子が延々と似たような絵を描き続けていたのには驚きました。