当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

ピカソは商売上手だった? 

 私たちは、「芸術家はお金や名声と無縁である」ことを無意識のうちに期待していないでしょうか。とりわけ日本ではゴッホやモジリヤニなどが、経済的苦境にあえぎ、批判家の拒絶にあいながらも、芸術上の信念を貫き、志し半ばにして世を去った生き方に、芸術家の理想像を求めている人が多いようです。私もそう思っていた一人ですが、近頃はアートファンのそのような固定観念が、芸術家の自由闊達な創作活動を束縛しているのではないかと感じるようになってきました。

 ピカソが自分の名刺のために、企業家よろしく戦略・戦術をいかに駆使したかを、豊富な資料をもとに紹介している本を最近読みました。「画廊は敵だ」と言ったかとおもうと、画商と組んで美術館やコレクターに売り込んだり、パリの社交界の女性のポートレイトを描いてあげて、とりいったりしています。まだ画商やコレクターの訪問を見越し、愛人のジローと商談が有利に展開するように、応対の予行演習をしていたともいわれます。

 しかしそうだからといって、ピカソの作品の価値がそのために落ちるということはないでしょう。ゴッホにしても、自分の絵が売れることを望みながらも、その当時は売れなかったのです。もしゴッホが長生きしていたら、大金持ちになっていただろうとその本の著者は言っています。芸術家も私たちと同じ人間なんだという見方をすることが必要なのではないでしょうか。

 自己実現のために創作することが芸術家の使命としても、仙人ではないのですから生きていくには売るための絵を描くことも必要で、けっして恥ずかしいことではありません。その時には、批評家や芸術家仲間の眼よりも、思いきって潜在顧客の満足を重視して制作してもらえたら、自らのアートファンを増やすことになるのではないでしょうか。