当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

「絵のように美しい景色」 

 わたしたち夫婦は、旅行が好きで海外・国内と問わずよく出かけます。自然が豊かなところをハイキングし、意外性のある美しい景色や珍しい光景に遭遇すると本当に興奮して、両の眼にしっかりと焼きつけると同時に、何年か後にもそのシーンを思い起すよすがにと、下手な写真をパチパチとります。

 ところで素晴らしい景色に出会うと、人々は「絵のように美しい景色」と形容します。ところがわたしたちには、「絵よりも遥かに美しい景色」と思えるのです。最近あまり美しい風景画にお目にかかっていないからかもしれません。

 ギャラリーを経営している手前、沢山の展覧会を見て歩くのはプロとしての修行と考えていますが、日展にしろ独立展にしろ、数百点にも及ぶ大作の連なりを見て歩くことは、一種の難行・苦行で、展覧会のはしごでもしようものなら頭も足も疲れ果ててしまいます。そして居酒屋でカタログを見直しながら、「本当に心をうつ絵はこれとこれなど数点しかなかったね」というのがいつものパターンです。つまりハイキングをした時のように身も心もリフレッシュする心地よい疲れとはほど遠い疲労困憊に近い状態なのです。

 旅行の折りになるべくその地方のローカルな美術館を訪ねることにしていますが、先日見た多摩の川合玉堂美術館収蔵の玉堂の遺作の数々には、心を洗われる思いがしました。日本画といっても水墨画が中心で、厳しい山村の自然条件の中で人々の日々の営みが幻想的に描かれているのですが、「実際の景色より美しい絵」といってもよいのではないかと思いました。

 玉堂の卓越した描法から再び画面上で生命を与えられた自然は、一言でいえば天地人の調和を持つ自然以上の自然として、等しくわたしたちに心のふるさとのやすらぎを与えてくれるのです。