当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

現代美術作家江屹(ジャン・イー)ダビンチ型のアーチスト

 江屹さんは千葉市に住む異色の中国人画家。十三年前、国費留学生として千葉大に入り、浸透のメカニズムの研究で工学博士になる。
 「当時は、美術での入学は許されていなかった。で、いずれ絵にも応用できると考え、浸透のメカニズムを研究対象に選んだのです。ドクターの資格を取ったあと、中国の大学で先生にならないか、と誘いがあったのですが、三歳から描いている絵をどうしても捨てられない。それで日本でアートの勉強を続けよう、と決断したのです」

 安定した大学教授の道を捨て、食べていけるかどうか分からないアーティストの道をあえて選んだところに、江屹さんの並々ならぬ絵への情熱が伝わってくる。

 そこで江さんは、早速東京芸大の絹谷幸二教授の門をたたく。絹谷教授は、当時を振り返り、「工学博士で、その研究が内外で注目されている人が、芸大に入るのだから余りの異例さにびっくりしました。しかし、興味もあった。大きなカケのつもりで受け入れました」と話している。

 そのカケは、絹谷教授の見る限り、良い方向へと向かっているようだ。「画家が次々と変わっていますが、変わる度に質的な奥行きが増している。アートとサイエンスが融合していて、レオナルド・ダ・ヴィンチ型のアーチストの道を進んでいる」と絶賛する。

 「千葉の多くの方々の支援がなければ、創作活動を続けてくることはできなかったと思います。アトリエはある不動産会社の女性社長の好意で無料で使わせて頂いていますし、アメリカで個展を開いた時は、中国人のためなかなかビザが取れず困りましたが、知人の努力で実現するなど心強いかぎりです。まさに千葉は中国の武漢とともにわたしのふるさとになりました」

 江さんを応援するのは、絵の才能に期待する面もあろうが、その人懐こいフレンドリーな性格にも負うところが多い。

 そういえば、昨年、江さんが千葉市民として認められた出来事があった。中央区役所に併設された千葉市美術館のオープンにちなんで行われたコンペに江さんのオブジェが入選したのである。一階の玄関ホール左壁面に飾られているのがその作品だ。

 「美術の世界、特に現代アートの世界は混沌としています。去年はアメリカとフランスで個展を開き、同地のアーチストと話をする機会がありましたが、その感を深くしました。自分のオリジナルなアートを確立するうえで、中国の哲学や伝統的絵画、また日本の絵画にも親しんできたこと、さらに大学で浸透のメカニズムを学んだこと、これらはきっと役に立つと思います」

 内に秘めた情熱と自信。江さんならきっとやってくれると、期待の声は強い。今年の六月には、またニューヨークで個展を開くという。

 江さんは、同じ中国人留学生として千葉大にいた藩さんと結婚。現在、千葉市内の小さなアパートで一人娘との三人暮らし。