当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

タレントの絵を見直す 

 少し前になりますが、銀座の日動画廊に寄ってみたら道にまで花束があふれ、警備員まで出て大変な賑わいでした。よく見ると、それは長渕剛の初めての個展でした。文人画のような作品が所狭しと飾ってありましたが、初日だというのに全て売却済でした。一点百万円以上もする作品も多く、けっして安いものではありませんでした。「申し訳ありません。明日新たな作品を搬入します」という画廊の張り紙にもショックでした。

 芸能人が絵画の世界でも活躍していることは知っていましたが、タレントの趣味から生まれた作品に、ファンの愛顧価値が加わって、やや高級なグッズとして売り出されている位に思っていました。しかし、長渕剛の作品には、ただそれだけでは片付けられない何か人を惹きつける魅力や迫力がありました。それは、最近のプロのアーティストの作品の魅力とは、やや性格のことなるものです。

 その違いは、次のふたつから来ていると思います。第一は、タレントは自分を売り込む多くのファンを獲得することに非常に積極的な人種なので、絵を描く時にもそれを鑑賞する人つまり顧客の潜在的な欲求を満たすという動機が強く働いていると思われることです。第二は、芸能界の表も裏も知り、幾度となく修羅場を潜り抜けてきた人生経験が、束縛の少ない彼ら独自の表現方法を通じて作品に滲み出ているのではないかということです。

 自分の心象風景を、ひたすら自己実現のために画面に表出させることを理想とするプロのアーティストの作品とは、もともと性格の異なるものかもしれません。ただ、老舗の日動画廊が取り上げたということに、時代の流れを感じました。