当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

まさに天才、雪舟 

 没後500年の特別展「雪舟」が、東京国立博物館で開かれました。50年に一度という回顧展なので、二度と機会は無いだろうと大いに期待して観にいきました。

 幼いころの雪舟が和尚さんに柱にくくられ、涙でねずみを描いたら本物のようだったので許してもらえたという話は小学校のとき教わりましたが、室町時代に日本的な水墨画を大成した巨匠という受験用の知識程度しかなかった私にとって、本物の絵を観るのは初めてでした。

 第一印象はまさに「すごい」の一言です。歴史上の画家の作品で5点も国宝に指定されているのは雪舟だけ(次は3点の狩野永徳)と知り、さもありなんと思いました。

 レオナルド・ダ・ヴィンチより少し先輩の雪舟が、この日本でただ一人で水墨画の変革に取り組んでいたのでした。同時に展示されていた同時代の中国や日本の水墨画と比較して、雪舟の絵にはあきらかな違いが認められました。特に絵の勢い、構図の大胆さ、それに現代アートにも通ずるデフォルメに表れていました。もちろん細密な部分にも卓越した技量が示されている作品もありましたが、大作については細かい部分はやや大雑把で、遠くから見ると迫力が出るように描かれていました。また鳥が上空から見たような「天橋立図」、ズームアップしたような「慧可断臂図」などの視点の自在さにも驚かされました。 私は、雪舟がどんな人だったのか想像してみました。僧侶で寺や庵(アトリエ)を転々と渡り歩いていた彼には、奥さんはいなかったと思います。また、初めて中国に留学した日本の画家でありながら、中国には学ぶべき画家はほとんどいなかったと記すなど、たいへんな自信家で、他人と同じでは気がすまない自己顕示欲の塊みたいな人だったのだと思います。

 美術史では新しい美術の運動を起こした人(たとえば「泉」と題して便器を出展したデュシャン)も評価されますが、雪舟は単なる革命児ではなく、自らも超一級の作品を沢山残しています。50年後、100年後も雪舟の回顧展は大盛況になるでしょう。