当サロンオーナー、田中義明によるエッセイ

「一竹辻が花」のこと

 当ギャラリーで個展をされた深沢修さんが、河口湖の富士レイクホテルのロビーで大規模なインスタレーションをされるというので、家内と同ホテルで一泊しました。彼の展示が素晴らしかったことはいうまでもありませんが、午後から同時開催される黒沼ゆり子のコンサートまでのひまつぶしにと訪ねた久保田一竹記念館での私達の驚きについて御紹介します。

 私は着物にはとんと興味がなく、家内に強引に連れられていったのですが、そこに繰り広げられていたのは、着物を使ったインスタレーションでした。デパートの着物売り場を想像していた私は、この作家はただ者ではないと直感し、黒柳徹子が彼と彼の作品を紹介しているビデオに観入りました。

 なんと彼は最近ワシントンのスミソニアン博物館で大きな個展をやっていたのです。スミソニアンでは現存の作家の個展は初めてという異例のことで、大変な評判になったようです。

 評論家達は、現代の日本の芸術で世界に紹介する価値のあるものは非常に少ないが、久保田氏の「一竹辻が花」はまさに日本の伝統と現代を融合させた真の芸術であると絶賛しています。

 彼の自伝を買って読んでみてまた驚かされました。友禅染の職人であった久保田氏が、20才の時に幻の染色といわれた中世の辻が花に出会い、その現代における再現を心に誓って辻が花の研究に着手できたのが僅かながらも貯えのできた40才、家族に極貧の生活を強いながらやっと自分が納得できる色合いを出せるようになったのが60才、東京での個展からはじまってスミソニアンにたどりつくのが80才、そしてなお100才までのロマンを持って創作に当っているその生きざまは、私達に勇気と感動を与えずにはおきません。