−113−

−112−

第2部 世界の偉人たちの生きざま

マザー・テレサ

金持ちが避暑に集まる別荘地です。人々はヒマラヤの景色を見ながら散歩をし

たり、乗馬をしたりして楽しく日々を過ごしていました。そこでのテレサの暮

らしは毎日神に祈りを捧げるだけで、彼女が望んでいたこととはかけ離れたも

のでしたので、貧民の多く住む大都会カルカッタへの転勤を申し出ました。

 カルカッタにあるロレート修道院は、インドでも最も人口が密集している地

域にあり、周辺はスラム街で、ゴミ捨て場や零細工場でごったがえしていまし

た。しかしロレート修道院の敷地内はきれいに掃除されており、テレサが勤務

する修道会経営の聖マリア高等学校にはスマートな制服の少女たちが学んでい

ました。テレサは初めその女学校の地理の教師でしたが、やがて校長になりま

す。校長室からはスラム街が見下ろせ、テレサは心を痛めると同時に、自分は

こんな日常を送っていて本当に良いのだろうかと、何か心の奥底にしっくりい

かないものを感じ始めました。

 ある日テレサは神のお告げを確かに聞いたような気がしました。「あなたは

全てを捨てて1人でスラム街に行きなさい。そこで貧しい人の中でも一番貧し

い人の中にキリスト自身を見出し、そのキリスト自身に仕えなさい。」テレサ

はその神の声に生涯仕えることを誓いました。

 テレサは直ぐローマ法王ピオ12世とカルカッタ大司教に、修道院の外に出

て活動する許可を得るための手紙を書きました。当時はシスターは修道院の外

に出ることを固く禁じられていたからです。「1年以内に修道院に戻ってくる

なら許す」という許可が下りた時には、テレサは38才になっていました。

 こうしてテレサは住み慣れた修道院を後にして、ただ1人スラム街に入って

行きました。勿論将来の見通しなど全く立っていませんでしたが、不安も全く

ありませんでした。ただ神の声に従うことが、自分の信念を貫くことに繋がる

という確信だけが彼女の支えでした。

 貧しい人の中には病気にかかっている人が多いので、その人たちを救うため

にはまず医療の知識が必要だと、アメリカの医療学校で4ヶ月間集中的に医療